「私…亜月が会社を辞めてこっちに帰ってきて私の会社を手伝うって言ってくれた時、嬉しいと思ったのと同時に不安だったの。

もちろん、私のことを思って私の心配をして決意してくれたのはわかってる。

だけど、会社を辞めるのは勇気がいることだし…それに、亜月にも好きな人が…」

そう言った絹子さんに、
「前の会社の上司や同僚も“頑張って”って言って見送ってくれたし、好きな人も今のところいないから大丈夫だよ」

私は言い返した。

一瞬、本当に一瞬だけど…頭の中に孝太の顔が浮かんだ。

最後の夜に彼と過ごした思い出は、すぐにでも消えてしまうだろう。

「私もまだ若いし、ゆっくりと相手を探してゆっくりと考えるよ。

本当は絹子さんに早く孫の顔を見せたいけど」

「孫って…私、まだ55歳よ?」

苦笑いをしながら言った絹子さんに、私はフフッと笑いながらほうじ茶に口をつけた。