そして、水樹が中学生活最後の一年間を送り始めたのとほぼ同時に、違う場所では一人の少年が、新しい場所で新しい人生を歩みだそうと鼻息荒く意気込んでいた。

「皆さん、えー、改めて、我が高等専門学校への入学おめでとうございます。」

入学式も昨日に終えた登校初日、今彼は恒例の自己紹介という新入生にとってのビッグイベントについて全力で待機しながら思案していた。

自己紹介ねえ。まじー、いや、ありでしょ。こういっちゃなんだけど、そういうの嫌いじゃない、人前で話すの、嫌いじゃないんだ。名前の順だから、ウ の俺に速攻で順番がくるよね。うけを狙っちゃう?まだ仲良くなってもいないのに冒険がすぎるかな?だけど、学生生活第一印象大事でしょ!

「宇野勇利です。不利、有利の有利とは漢字が違いますが、いつも名前はすぐに覚えて貰えます。実は成長がちょっと出遅れてて、まだ小柄に見えるかもしれませんが、卒業する頃にはあだ名が うのゆうりタワーってなってるはずなんで、皆で僕の貴重な成長過程を是非見守って下さい!」

一瞬の沈黙、そして失笑・・・。どうやらすべったようだ。
しかし、勇利が足早に自席に戻ろうとした時、一際目立つ明るい笑い声が響き、それをきっかけに教室の空気が変わった。
そして、ほっとした勇利は席に戻るまでの間に、その笑い声の女の子を探した。
 
いた・・・。

その彼女はもう隣の席の男子と打ち解けている様子で、更には勇利の視線にも気が付いたのか、彼に目線を移して爽やかに微笑んだ。

着席後、さっきのあの子が気になる勇利は、他のクラスメートの自己紹介は半分 右から左で聞きそらし、落ち着かない様子でふわふわしていた。