おもいでにかわるまで

次の日の夜、北海道から戻った勇利と水樹は大きな駅近くの中華料理屋で食事をしていた。

「天津飯セット。ラーメン大盛で。」

北海道のとうもろこしやじゃがいもなど、それは大変に美味ではあったが、規則正し過ぎる生活と食生活を送っていると塩分多量のメニューが恋しくなる。

「合格おめでとうございます。乾杯。」

勇利は食べながらお土産を渡し土産話をした。

「海外じゃないけどさ、まじで世界観変わるよ。」

「うんうん。」

水樹は勇利の話を嬉しそうにニコニコしながら聞いている。勇利にとって水樹は良い子でもちろん好きではあるし、その上自分の良さが分かる所も十分かわいい要素で、ただ、いきなり‘俺の事好き?’とは聞けはしない。

「飯時に悪いけど、ほんと牛をきれいにする時も牛舎を掃除する時も、あれにまみれて大変でさあ。」

「あはは。」

「まだ臭ってない?」

「うーん。そういえばほんのり・・・。なーんて、勇利さんからはいつもラベンダーの香りしかしませんよっ。」

「うまい事言っちゃっても何も出ないよー。あ、すみませーん。ゴマ団子追加お願いしまーす。」

久々に会ったせいもあり、二人はいつもより盛り上がる。彼氏彼女として交際していなくても、何年も同じ場所で成長してきた。でも、誰にでも当てはまる事かもしれないけれど、不思議とイメージはいくつになっても最初に出会った頃のままだった。そして結局ただ盛り上がっただけで勇利と水樹は席を立ち、会計になった。

「俺払うわ。」

「駄目駄目。奢られる理由がありません。ちゃんと自分の分払いますっ。」

「今日はいいよ。全国行けなかったお詫び!ほら、店の外で待ってて。」

「あ・・・。はい・・・。ご馳走様です・・・。」

それから勇利は会計を済ませ水樹とエレベーターを待ち、いつ恋話を切り出そうか様子を伺った。

「夏休み何してた?ちゃんと勉強してたか?」

「あ、はい。あの・・・。」

「今からカラオケでも行く?」

「はい。大丈夫です。でも実は、今日は勇利さんに話があって・・・。だから来たんです。」

やばい告られる。と勇利はひやっとして緊張した。

駄目だよ水樹ちゃん。今日はデートじゃないんだ。だからそれは絶対に必要のない勇気で、俺には気になる人がいて、お前は後輩以上にはなれないんだ。いや、いっその事豪快に振ってあげた方が水樹ちゃんは前に進めるのかな。でも恋が絡むと必ず気まずくなるんだよね。

と勇利は数秒思い悩んだ末水樹を突き放す覚悟をいよいよ決めたのだった。

「うん、何?」

「はい。あの・・・。あの、長谷川さんと付き合う事になりました。」

そしてちょうどエレベーターが到着したので二人は乗り込んだ。