おもいでにかわるまで

「動物好きなの?てか俺も手伝ってもいいかな?」

「いいけど・・・。」

瞳と共同での仔牛のミルクやりは奇妙な疑似体験に感じて勇利はドキドキしっぱなしだった。

それから勇利が滞在中の2週間の間に、勇利の努力の甲斐あって勇利と瞳は仲良くなった。瞳は大学では農作物の品種改良、遺伝子操作について研究していく方向性で、更には将来は海外で働く事も視野に入れていると勇利に話してくれた。

自分でレールを敷いて走る姿勢はかっこ良く、勇利が惹かれてしまうのも無理はない。それに勇利だって海外には相当興味があった。

そんな将来の展望図を、二人でこっそり北海道の星屑の下で語り合ったのは、勇利が地元に戻る前の日の夜の事で、そしてそれとは対称的に勇利は地元に帰る当日まで、水樹の事は一度も思い出さなかった。

勇利には自覚がある。水樹はおそらく自分の事が好きだ。そして勇利も水樹をかわいい後輩だとは思っている。でもそろそろ水樹を前に進めてあげないといけない頃だとも思う。

日程通りファームステイを終えると、勇利は水樹にクッキーのお土産を用意し北海道を離れた。そして帰りの飛行機を降りて在来線での帰宅途中に‘明日の夜飯でもどう?’と水樹にメッセージを送信した。そしてその会った時に、もう美化した俺なんかは忘れて、現実を見て自分らしい恋をするようにさとしてあげようと思う。

確かに今まで自分に彼女が出来ても特に水樹に報告もしなかったし一途過ぎる彼女の気持ちに勘付きながらも何年も放置してきた。でも今回勇利が初めてこんなアクションを起こすのは、‘瀬名瞳’が将来、‘宇野瞳’として名前を変える事になるであろう未来図が、もうこの時既に見えつつあるからなのかもしれないからだった。