「俺そろそろ行くわ。そんで今日は絶対安全運転で帰るから。だって俺に何かあるとさ、最後に俺に会ってたお前が重い十字架を背負う事になるじゃん。」

「聖也君・・・。」

「じゃあまたな羽柴。」

そしてその時ちょうどホームに車両が到着したので瞬介はお辞儀をし、それから来た時よりも少しだけ重くなった小さなリュックを背負い聖也に向けて手を挙げて乗り込んだ。

聖也はまだホームにいた。瞬介が確実に新幹線に乗車するのを見届けているのかもしれない。それから瞬介が指定の席に座ると残念ながら右の窓側だった。

これじゃ富士山さんは拝めないのにこれだから素人は。と瞬介が聖也を嘲笑しても新幹線はスピードをアップさせていく。瞬介はカーテンの隙間から窓の外を長い時間眺め、でもあまり深い考え事はしなかった。

帰ったら何しようかな・・・。

と瞬介は目を見開いた。

あっ。嘘っ。富士山だっ。右富士だっ・・・。

わずか数秒の奇跡だったけれど心が震えた。気付いた乗客達も瞬介と同じように興奮している。

俺の神様はどこまでサプライズが好きでどこまでイキな奴なんだ。くっ。と込み上げた。でも瞬介は泣いてない。

俺、なんで聖也君にわざわざ会いに来たんだろう。

俺、終着駅に着いたらちゃんと聖也君に報告するよ。

それから水樹ちゃんと、飲み会で知り合ったあの人にも返事をするんだ。

そしていつか水樹ちゃんを乗り越えられたら、多分それはきっと卒業する時なのかもしれないけれど、俺は伝えるんだと思う。

‘もう過去の事だけど、実は水樹ちゃんの事が一時期好きだったんだよね。’って。

そしたらどんな面食らった顔で君は笑ってくれるのかな。

さよなら。俺の大好きだった人。

また新学期に会おうね。

瞬介より。なんちゃって。

新幹線は定刻通り東京駅に到着する。


番外編_失恋エクスプレス 終わり