瞬介は聖也が眠ったのかどうか様子を伺っていた。でもそうしていると瞬介自身も水遊びで体力を使った事と寝不足があわさって急にウトウトしてきた。

「あー、ねむ。くそ、お前のせいではしゃいじまっただろ。でもなんかお前見てると、ちょうどお前くらいの歳の時に失恋した事を思い出すわ。」

「え・・・。」

「あん時はまじ辛くてさ、その女が最初で最後の女神みたいに思えててさ、馬鹿だろ、忘れる為にひたすら勉強に打ち込んだんだよね。ま、だから今の俺があるんだけどさ。」

瞬介は信じられなくて先輩に対しての返事に困った。

「大学に入るとまさに人種のるつぼじゃん。癖が強くて個性的な奴と沢山出会ったし、普通にいい女も星の数ほど見たよ。」

瞬介は無言のままで、でも聖也は話を止めなかった。

「なあ羽柴。お前実家には帰らないって言ったろ?なんで新幹線の切符、こだまなんだ?しかもなんで途中の駅までしか買ってないんだ?」

「えっ・・・。」

瞬介は起き上がり聖也を見た。そして聖也も起き上がり瞬介を厳しい目で捕らえた。

「俺さ、京都から富士急ハイランドに行った事あるんだよね。それでその時興味本位で色々調べてさ・・・。だからお前の切符見てわかったよ。馬鹿で単純なお前の考えてる事。本気なわけないだろうけど、あんなとこ安易に独りで行く場所じゃねーよ。」

そう言って聖也は瞬介のリュックの前ポケットに入れてある切符入れを見るよう促した。

「えっ!?なんで・・・。」

どういうわけか切符はこだま自由席ではなくて、15時発、東京行きのぞみの切符に変わっていた。

「今朝、お前の切符を払い戻して俺が買ってきた。」

違ったらどうするんだ信じられない・・・。と瞬介は冷や汗を出した。

「飲み会のあの子さ、お前が地元の人間だったらまた会いたかったって友達に言ってたらしいよ。」

「でも・・・。」

「お前さ、今日ちゃんと終点まで乗れよな。そしたらきっと良い事いっぱいあるからさ。約束するわ。んじゃあ寝る。」

ぐう・・・。秒速で聖也は寝た。

「くっ・・・。」

なんだよ馬鹿言い逃げじゃん。チャラ男のくせにかっこつけないでよ。と瞬介は声が出ないように肺に力を入れた。

それから瞬介も横になったけれど、でも聖也のように一瞬で眠る事は出来なかった。