新幹線は瞬介の地元の方面を通り過ぎる。でも窓の向こうは曇り空で、運良く右窓側の座席を購入できたのに、楽しみにしていた富士山も拝めそうになかった。それから目を閉じて後悔を唱え、冷静に分析した。

自分のタイミングと、他人のタイミングと、同じなわけはないのに、どうして昨日と同じ今日が来るなんて都合良く思っていたんだろう。

自分の明日も明後日もどうせ今日と同じでどんより冴えない曇り空なのだから、もう明日なんて来なくていい。出会う順番なんて関係なかった。だけど自分の方がずっと先に出会っていて、彼女の良い所も悪い所もいっぱい知っていたのに、本当に馬鹿だ。

実は瞬介は地方大会が終わりクラブがオフになった後、用があって帰省していた。だからすぐに水樹へ行動出来なかったのだ。でも勝手にルールを決めて今まで逃げて延ばしてきたのは自分自身で、その結果がこれだった。

俺のばか。言い訳ばっかりしてきたからこうなるんだ。そして水樹ちゃんの・・・ばか。

好きな人に好きになって貰えないのは、自分を全否定された気分になり、生きている価値もないとさえ思わされる。ただそれでも新幹線は瞬介を乗せて走る。そして瞬介はどうして新幹線にいるのだろうか。

それからひとしきり憂鬱を満喫した後、社内では旅の疲れを癒やす為のメロディが流れ始めた。

‘まもなく、京都です・・・。’

瞬介は小さなリュックを下ろし下車の準備をし、遅れないように到着の手前からドアに並んで立った。そしてドアが開いてから順番に下車すると、わざわざ迎えに来てくれていた。

「よお。こっちは暑いだろ。」

「かなりやばいですね。ホームまで来てくれてありがとうございます。」

「後で入場券の代金請求すっから。」

瞬介が失恋した時に顔が浮かんだのは親友の礼ではなく聖也であり、そして瞬介がたまらずに電話を掛けたそのままの勢いと流れで今この京都に辿り着いていた。

「一旦俺んち帰るわ。」

瞬介はもちろん右も左もわからず、印象としては東京駅よりも広くはなくてごちゃごちゃとしていて、皆の早口の京都弁やら関西弁が怒っているように聞こえてこの蒸し暑さの中冷や汗が出た。

それから瞬介は聖也の後ろを黙ってついて行き、そしてヘルメットを渡されバイクの後ろに乗ると、地面から来る不愉快な熱気を受けながら知らない街を聖也と走り出した。

暑さの中、聖也が京都に来て何年になるんだろうと瞬介は考えた。そして、交通量の多い街の中をスイスイと無言で走り抜ける聖也の姿がカッコよくて、だから余計に自分の何も持っていない姿にまた辟易した。