失恋トレイン。行き先は自分も誰も知らない町。ではないけれど。

博多行きののぞみの窓にもたれ、自分のまぬけさを呪いながらよせばいいのに一昨日の事を回想する。

もう8月になる一昨日の土曜日の朝、瞬介は水樹の携帯に電話を掛ける準備をしていた。画面に表示させて、後はタップするだけだ。

する、しない、する、しない、できる、できない、できる、できない。普段用事がある時はなんて事のない電話なのに、どうしてこんなに緊張するのか。そもそもただ誘うだけなのだから、電話ではなくメッセージでも送ればいい。でも瞬介は違った。

駄目。俺は逃げない。大事な事は言葉じゃなきゃ伝わらないよね。と奮い立ち、瞬介は既に何度も練習した今から伝えるべき台詞を再び心の中で唱えた。

‘お姉ちゃんに今夜のプロ野球観戦のチケットを2枚貰ったんだ。野球好きだよね。行こうよ。’

練習は出来た。ドキドキドキドキして、そして瞬介は電話を掛けた。

着信音が鳴る。

出ない。

瞬介は電話を切った。そしてそのままの姿勢で15分待った。けれども水樹からの折電はない。

また待機して、それから瞬介はクラブの名簿を用意し、勢いのまま水樹の家に電話を掛けたのだった。

そしてまた着信音を聞く。

どうして瞬介がそこまでするのかというと、だって今日、瞬介は水樹に ‘ずっと好きでした。’ と伝えると、伝えるとやっと決めたのだ。それに今諦めてしまったら、同じ勇気をもう一度奮い立たせるなんて二度と出来ないと瞬介にはわかっていた。

だからその為に今朝、姉にチケットを半ば強引に譲って貰ったのだ。

「はい立花です。」

「あ、ぼく、水樹さんと同じクラブの羽柴と申します。あの、水樹さんいらっしゃいますか?」

「ああクラブの。いつも娘がお世話になっております。それがね、同じクラスの男の子と遊園地に行くって出掛けてしまったのよ。」

まじ!?と瞬介は驚いた。

「ま、前田礼君とかですか!?」

「へえ、前田君の事知ってるの?でも今日は長谷川君って聞いてるよ。あ、言っても良かったのかな。」

え?と思いつつ会話を続けた。

「あ、あ、あのっ、僕も長谷川君よく知ってます。水樹ちゃんと同じクラスのっ、そのっ・・・。」

「ああ、そうなのね。あの子達最近付き合い出したばっかじゃない?だから毎日遊びに出掛けててね。もうほんとあんな緩くなる娘だったなんて私もびっくりしてるのよ。」

瞬介は、その後は何を話してどうやって電話を切ったのかの記憶がなかった。