おもいでにかわるまで

次の日の火曜日の昼休みは、打順と守備を決めてから大体の守備位置に付き、礼も含めて交代で打撃練習をした。

水樹、明人、礼、和木、打順と守備はこうなった。

1番サード長谷川明人

6番ファースト前田礼

8番キャッチャー和木透

9番ピッチャー立花水樹

礼は長身を見込まれファーストになり、そしてピッチャーはアンダースローに慣れている水樹が適任という事で決定した。それから残りのポジションは野球部から決めていき、消去法で明人がサードになった。

まさかあの明人と今こうして一緒に熱く白球を追いかける事になるなんて一同は信じられないでいる。始業式の日の、生気の無い目で誰も近寄るなのオーラを強烈に放っていた明人を思い出せば青天の霹靂で、だから水樹も皆もクラスメートとして仲良くなれそうで嬉しかった。

あの明人をこんな風に引き込むなんて、これも水樹の人柄のお陰である。そして入学してから3年、水樹と礼は大事な親友同士として存在し、それはずっと変わるものではなく、何が起きても何が変わってしまってもこれからも同じなのだった。

水樹は先に打撃練習をした後、打撃投手としてマウンドに立った。水樹は中学の頃は内野手だったのでウインドミルはできず、でもコントロールは抜群でその一途な投球姿勢に見ている仲間達のテンションは募らされていった。

他のクラスに挑戦状を叩きつけられ、このまま黙って負けるわけにはいかない。ただの遊びの延長のはずなのに、どんどん勝ちにいく雰囲気になってくる。礼や水樹達は、そこに何の利益もないのに、仲間の為、自分の為、或いは言い出しっぺの水樹の為、ただの小さな一勝の為に馬鹿みたいに団結した。

それから練習の後、礼は話しながら野球部の3人と教室に戻った。水樹は着替えるからと一番に退散しているし、明人と和木は二人で先に帰っていた。

「立花超やばいよね。なんか今更惚れそう。」

「わかるわー。見学してくれるのもそりゃ嬉しいけどさ、女子も混じって健気に一緒にやってくれたらよりくるよね。」

「立花って男いたとこ見たことないけど、お前らよく一緒にいるし実は内緒で付き合ってんの?」

礼に向けられた質問に礼は思ったままを答えた。

「僕達はただの友達だよ。もう性別を超越した感じかも。」

「あー。なんとなくわかるそれ。二人からは男女の妖艶な臭いしないもんね。」

「じゃあさ、試合に勝ったらこの中で誰か告ってみようぜ。彼氏いないんだったらいけるんじゃね?」

礼以外の男達は言いたい放題だった。