おもいでにかわるまで

可もなく不可もなしの一日は過ぎ、いや、これこそが実は明人にとっての最高の幸せな状態なのかもしれないが、放課後になり明人はクラブに行く準備をした。

同じクラスには和木というバレー部の後輩がいる。その和木も明人とクラスメートになった事にようやく慣れ、明人に話し掛けると二人で新入部員について雑談をした。

「たっちーこれもよろしく。」

そして和木は自分の飲み終えたペットボトルを教室のゴミを捨てに行こうとしている水樹に図々しく渡した。

「今度もんじゃ焼き奢ってあげるからさあ。」

和木とのやり取りで水樹は笑った。

「奢ってもらわないといけないもの、きっと50個は溜まってるよ。」

そして明人は移動する為に黒板側のドアに向かった。ドアに向かうと飲み物類の大きなゴミ袋を持った水樹が同じタイミングでドアを開けようとしていた。

ガラガラッ。と明人は自分が廊下へ出る為に、水樹の背後から手を伸ばしドアを開け、そして水樹の後ろから続いて廊下へ出ると、そのまま堀田のいる隣の教室へ向かった。 

「長谷川さんっ・・・。」

その声の大きさに驚いてしまい、明人はとっさに振り向いてしまった。そのせいで水樹とバッチリ目が合いでも水樹から呼んでおいたくせに水樹は黙った。

「あの・・・、ありがとうございますっ。・・・えっと、さようならっ。」

水樹が笑って挨拶をした。

「バイバイッ。」

明人は再びスタスタと歩き出した。後ろで話し声がする。

「水樹ちゃん、僕も一緒に捨てに行くよ。」

「これ一つだからいいよ。今日はデートはないの?」

明人は考えた。自分はどんな顔で ‘バイバイ。’ なんて言ってしまったのだろうか。更に明人は考えた。水樹は明人のレポート用紙を返すのを忘れている。なんて酷い女子なんだ。そして明人はまた歩いた。

明人は今日、昨日より5秒多く水樹の事を考えた。だから明日は今日より10秒多く水樹の事を考えるのかもしれない。

なんて、明人の気まぐれがもたらすこの気まぐれな関係がしばらく続いてしまうのは、太陽よりも光が強い、水樹の笑顔のせいだった。