おもいでにかわるまで

水樹から勇利が去っていったのを狙っていたかのように、‘立花さん、聞いてもらいたい事があるんだけど今いい?’と水樹は微笑み掛けられ、そして水樹は誘導されるままに非常階段へとついていった。

勇利と同じクラスの女子の先輩と、違うクラスの女子の先輩と、それからもう一人、仁美がいた。

先輩に囲まれれば、水樹でも誰でも大抵は恐怖で緊張も尋常ではない。水樹達は非常階段を上った先の少し広めの踊り場に移動し、そこで水樹は先輩達から自分の行動について指摘を受けたのだった。

「ごめんね、こんな所まで来て貰って。」

「ちょっと立花さんに教えてあげようと思ってね。あのさ、これうちらが言ってるんじゃないからね?」

「立花さんさ、よくうちらの学年の教室ウロチョロしにくるじゃん。それが超目立ってるみたいでさー。」

「そうそう。うちらは別にいいじゃん、って思ってるよ?でもさー、中には快く思ってない人もいるみたいなんだよねー。勇利目当てなのがあからさまな所とかさ。」

「だよね。勇利君人気だし忙しいのにつきまとわれて迷惑なんじゃない。あ、はっきり言っちゃってごめんね。私ってサバサバ系の人なんだ。」

先輩達の怒涛の攻撃に加え、‘迷惑’という言葉は、勇利に軽くあしらわれたばかりの水樹の胸をついた。そのせいかどうかはわからないけれど、水樹はまた感情的になる。

「皆さん勇利さんの事が好きなんですか?」

水樹は仁美も含めて押し返す様な目で圧倒した。そこにはこんな水樹の思いがこもっているのだった。

昔は偶然明人にかばってもらったけれど、自分のせいで無関係の人まで巻き込んでしまった事がとても申し訳なく、だからそれ以来他人に迷惑を掛けないように出来るだけは自分で乗り切ろうと心掛けてきた。

それに、先輩達に言われなくても、今まで何度も勇利の事を好きでいるのは止めようとした。他でネガティブになると、恋愛が力になるのではなくて反対に辛くなる時もあるのだ。

片思いが長過ぎて、意地を張ってむきになっているだけなのかもしれないのに、勇利を好きな事を止めると今の自分に何か残るのかと、漠然とした未来に不安にもなった。

思春期の水樹は、今は気を張っているが本当は気を抜けば途端に涙がこぼれそうだった。