このクラスは程度の低い事で直ぐに盛り上がろうとする一言で言えばガキ。これが明人のクラスメートへの印象だった。

「この超ドデカパン食べ切った奴賞金100円ー。」

「将棋トーナメントの組み合わせ決まったからー。」

「春の新作お菓子コンビニで買ってきたよー。」

などという具合に、なんでもイベントにしようとするし騒がしい。

そして特に自分の前の席の女は酷い女子だとわかってきた。水樹を水樹だと認識した当初は、明人は水樹のその風貌から、どうせ優等生だろう、クラス代表でもあるし、と決めつけていたのだった。

でも水樹はそうではなかった。授業中皆と同様に居眠りをする事もあれば、聴こえた小テストの点数が70点と普通で、それから、何と言っても当てられて教科書を読みあげる時の声が抑揚なく低いトーンで、それが上手いような棒読みのような奇妙な感覚にさせられて面白かった。

一週間休まずに登校した明人はこのように他人を観察なんかしたりして、多分気まぐれに機嫌が良かっただけなのかもしれない。そして午後の授業を机に伏せて寝ながら受け、そのまま起きる事なく次の授業に向けて待機していると、誰かが水樹の席まで来たのを気配で知った。

「水樹ちゃん水樹ちゃん、見て見て、庭の木の下に猫ちゃんがいるんだって!」

「どこどこ?ほんとだ。お行儀よくちょこんと座っていて凄くかわいいね。」

「超やばーい。誘拐したーい。あのこ野良猫ちゃんかな?」

「地域猫さんじゃないかな。ほら、あのこ耳がカットしてあるもん。」

「えー、遠くてそこまで見えないんだけど。水樹ちゃん視力良すぎ!あはは。」

「へへ、あたし山育ちで目は良いの、なーんてね。」

ん?と明人はしっくり来ない気持ちの悪さを感じた。

「その台詞知ってる。昔の。なんだっけ?(むし)のやつ?」

「そうだったかも。」

いや城のやつだから。適当だなもう。と思う明人は何か大切な違和感に気付きそうだったけれど、今日の春の風がとりわけ素直だったから、その後は深い眠りに付き、そして授業が終わる頃にまた起きた。それから用もないので教室を出た。

「クラス代表、これ運ぶの手伝ってー。」

先生に声を掛けられた水樹が先生の荷物を持つと、明人と同じく教室を出ていった。明人は手伝わず、クラブへ行く為にバレー部の仲間の堀田のいる隣の教室に移動した。