行ってきます・・・。

誰に言うでもなく明人は心の中で呟き、自宅の玄関を出た。

今日は始業式だ。鉛の様な重い足で、更に重く感じるペダルを漕いだ。

学校になんか行きたくない・・・。辞めて働けばいいじゃん・・・。全てが最悪だった。

母親が泣き、父親が怒り、明人は学校を辞められなかった。その時に、とりあえず夏休みまでは学校に行く、そう約束させられた。明人の目は、死んだ魚の様な目をしている。そしてガラッと不機嫌に教室のドアを開けると、それまでガヤガヤとしていた空気が凍り、一瞬で時間が止まった。

こっち見んなよ、最悪・・・。

明人は目玉だけ動かした。

どこ座ればいんだよ。まじでこのままUターンしたい。ははっ、しかもシーン・・・て?

「あのっ、長谷川さんの席はここです。」

一人の女の子が立ち上がり明人に近寄った。

見た事ある・・・。確か勇利の・・・。

明人はブスッとしたまま勇利の後輩の案内に従い間髪入れずにドサッと着席し、それから誰とも目が合わないように下を向き、自分の気配を消して過ごした。

ここは4年A組で、去年と同じ明人の教室でもあり、つまり明人は留年したのだ。

だるい・・・。今日から地獄が始まるのか。

そうとしか思えなくて時々襲ってくる吐き気を明人は何度も我慢した。そして校長先生の挨拶を校内放送で聞いた後、ホームルームが行われた。

この4年A組には一人だけ明人のバレー部の後輩がいるけれど、今日から後輩ではなく同級生になるのだ。

そして明人の知らない者ばかりの今日から明人のクラスメートになるこのクラスの者達は、明人に構う事なくすぐに日常に戻りホームルームを始めた。

その間も明人は息だけをして気配は消したままそこにいる。担任が教科書を配り、親への手紙を配り、挨拶を軽くして教室を出ていった。そしてその次はどうやらクラス代表の話があるらしいのだ。

なんなの?初日から話す事なんてないよね?早く帰らせろよ。全部が最悪。

「今から、恒例の席替えをしまーす。もうクジも用意も出来てあるから、黒板に書いてある座席表見て移動ね。」

「イエーイ!」

は?何なのこの盛り上がり。席替えくらいで騒ぐ事?変なクラス、ていうか、幼くない?

以前の明人のクラスの仲間と1歳違うだけなのに、全然雰囲気が違い明人は益々げんなりした。