なんとか昼休みの時間内に勇利の教室に到着し、そして水樹はまた覗いた。

いたっ。と勇利を発見する事ができ、ホッとして一度ドアから離れて呼び出す方法を考えてみた。さっきは ‘瞬ちゃん’と浅はかに呼んでしまい瞬介に迷惑を掛けた為に、水樹は次はうまくやりたかった。

「なんすか水樹先輩。」

「えっ!?」

それなのになんと勇利の方から意気込んでいる水樹に会いに来てくれたのだった。久しぶりの勇利に水樹の胸が躍る。けれども心の準備が出来ていなかったのでドギマギしてしまったのだった。

「あっ、やっ、先輩っ!?あっ、勇利さん何か用ですか?」

「何言ってんだよ。水樹ちゃんが訪ねてきたんでしょ?もう、笑かさないでくれる?」

「あ、そうでした。忘れていました・・・。ごめんなさい。」

「で、なあにかな?」

勇利はほくそ笑んでいた。水樹はただでさえ恥ずかしいのに、更にエネルギーが必要となった。

「テストの過去問を貸して下さってありがとうございました。写させてもらったんで、これ、お返ししますね。」

「あー、それねー。お前ちゃんと勉強してるかー?お前から学問の匂い一つもしないんだけど。」

勇利はずっと笑ったままだ。

「や、やれば出来るんです。私だって!」

「はい出た出た。それ高専あるあるだからね。皆言ってるから。‘俺やればできる。’って。」

勇利は今度はキュヒッといたずらっぽく笑った。

「いつやるの?いつでしょっ!なんつって。」

そのかわいい笑顔に水樹はほわっとした愛しい気持ちになり、胸もドキドキした。

「これっ、過去問のお礼ですっ。手作り風チョコレートで、えっと、皆に配っててその残りで悪いんですけどっ、本物は彼女さんにでも貰って下さいっ。」

「手作り風?またおかしな事言ってる。はは、本当は作ったんでしょ?」

「あ、はい・・・。」

「今彼女いないよ!それからお前ちゃんと勉強しろよ。じゃな!」

勇利は、水樹に痛くないデコピンをすると教室に戻った。

嘘・・・。落ち着け私・・・。と水樹は右手を左胸に当て鼓動が止まっていないか確認した。そして溢れ出る勇利への想いを噛み締めた。

もっともっと勇気を出してもう一度呼び出して、今、‘好きです。’と伝えたら、勇利さん、あなたは私になんて返事をくれるのですか・・・。

でも何も出来ない自分が歯がゆかった。