「勇利さん、絆創膏貼りましょうか?」

「はは、聞いてたの?」

「仲良くやってんじゃん。なあ、今お前女いんだろ?」

「うん。」

「友達の紹介だっけ?」

「うん。」

「あいつの事、水樹の事どうすんだ?」

「どうって別に何も。水樹ちゃんも彼女がいるのは知ってるし。」

「まじ。」

「俺は最初から妹としか思ってない。それに学校内はもう嫌なんだ。聖也君の元彼女っていうのも・・・。」

「はっ?」

「まあ告白されてもないのにあーだこーだ想像したって取り越し苦労もいい所じゃん。それよりさ、なんで別れたの?」

聖也は考えを一周させた後答えた。

「俺が好き過ぎたんだよ。」

「何それ。じゃ練習戻るね。今日昼飯一緒に行かない?」

「おう。」

聖也こそ一番水樹を好きだったのに一番遠くに感じる。そして聖也は水樹の作ったお茶をもう一口飲んで一人で吹き出した。

ぷっ。こんな薄かったっけ?まじ5年間もよく飲み続けたもんだよ。でももし今ここに彼女がいたら、俺は何を話すんだろな。なんてな。

「コップ、片付けますね。」

聖也は心臓が止まるかと思った。そしてちょうど1年前、水樹にホワイトデーにプレゼントする品を選ぶのに悩んだ日を思い出した。

「久しぶり。元気してた?」

「はい・・・。もう来週卒業式なんですね。」

「うん。この1年もあっという間だったよ。」

「私もです。」

聖也は水樹にずっと謝りたかった。

「また綺麗になったな。」

水樹は驚き、そして自身に満ち溢れた顔をした。

「・・・はいっ。」

家の敷地に咲く小さなリナリアの花のような、なんて愛らしい笑顔なんだと聖也は胸が締め付けられた。

恋する水樹は綺麗だった。つまり聖也は全ての始まりから、恋する水樹に恋をさせられていたのだ。

「京都に来いよ。」

「いつか勇利さんや皆と遊びに行きますね。」

水樹はもうしっかりと前に進んでいる。

「勇利女いんじゃん。」

「はい。でも、今はまだいいんです。私だって作戦考えてありますから。」

「スカートの丈後30cm短くしたらいけんじゃね?」

「わっ!聖也さん、それハラスメントギリギリアウトじゃないですか!?もうっ。」

「そっか?お茶うまかった。サンキュ。もう行くわ。」

「また練習教えに来て下さい。本当にありがとうございました。」

聖也は学校を卒業する。
聖也は青春を卒業する。
聖也は水樹を卒業する。

だけど聖也は、自分も勇利も水樹も思い出になんかしない。自分達はこれからも継続していくのだ。

練習が終わった後、部員達に ‘また来る。’と挨拶して聖也は去り、そして心に刻んだ。

水樹、良い女になれ。いや、後悔するから程々にしてくれ。そして幸せになれよ。本当に大切なものは、何があっても手放すんじゃねーぞ。

BYE FOR NOW・・・。

体育館のすぐそばに植えられているまだ咲き始めのアネモネの花を横目に、聖也は遅れてやって来た勇利と学校の門から出ていった。