3年生の正木聖也の勧誘後、勇利はすぐに入部届けを提出したが、腑に落ちない事があった。

まじで聞いてなかったからね。鈴宮さんってば、最近いよいよクラブに顔を出さないじゃん。

そう。なんとお茶作りは勇利達1年生の仕事だったのだ。だからこそ勇利には入部早々に壮大な野望ができた。

次の1年生は、必ずマネージャーを手に入れてみせる。不器用でもいい、お茶が作れればそれでいい。

固く、そして熱過ぎる決意であった。

それにしてもあっちー。汗って皮膚じゃなくて、骨から出るのか。溶けちゃうよ。

勇利が水道で洗い物をしていると、そこへ同じクラスの陸上部、間宮仁美がやってきた。

二人は音楽の趣味も合い、あの入学当初に参加したカラオケからもっと話せるようになり、すっかり気を許せる仲になっていた。

「間宮さん、お疲れ!」

仁美は大きく喉を鳴らしてウォータークーラーの水を飲んでから答えた。

「あー、勇利くーん。今日もお茶当番?お疲れさまー。それにしてもあっついねー。溶けちゃいそうだよ。」

「はは。確かに。俺も今溶けてる最中。ほら。」

「えー、ほんとだ。腕から怪しい液体が出てるよ。」

「汗だし。」

ふふふ。と見つめ合って、お互いの呼吸を合わせる。

やっぱり間宮は可愛いな。一緒にいるといつも楽しくて、なんていうか、波長がシンクロしあう感じなんだ。

勇利はもう一度仁美を捉えてから思った。

あのね、もう少しだけ、君との距離を縮めてもいいですか。

「あ、ねえ、今日さ、一緒に・・・。」

「仁美ー早く来いよー。着替えて帰るぞー。」

え?呼び捨て?誰?

男の声により勇利の声は途絶え、そして勇利の体は瞬時に硬直した。ドクンドクンと心臓の音が大きくなると、それから顔の筋肉までもが徐々に硬直していった。

「オッケー。じゃね、勇利君。」

「あのさっ。今の声の人って・・・そのっ・・・。」

なんとか声を絞り出す。

「うん!クラブの先輩でね。えへへ・・・夏休みになってから告られて、付き合ってるの。」

目をくにゃっと細めて、恥ずかしそうに、でも凄く嬉しそうにそう言って、仁美は彼の元へ走っていった。

そんな・・・。

勇利は魂が抜けたように立ちすくむしか出来ず、そして仁美の後ろ姿が見えなくなってもまだその場から動けなかった。