レティシアは、この世を支配せんと企む魔王を討伐するために選ばれた勇者一行の一人だ。
 五歳の頃に神殿に引き取られ、そこで聖力の発現・強化するための修行に明け暮れていた。巫女と呼ばれ、俗世から切り離されて慎ましい生活を送り、神に祈りを捧げ続けることで、聖なる力を得るのだ。

 巫女の中でも特に聖力が強いレティシアが聖女の称号を得て、勇者一行に随行することになった。
 聖力で結界を張り、魔族が放つ瘴気や攻撃を退けるのがレティシアの主な役目だ。

 魔王が棲むという、ラドゥーシヴァ。
 その国境にある「及ばずの森」に入ったのが昨日のこと。

 もう少しで森を抜けるというときに、魔族の襲撃に遭い戦闘。
 強敵で苦戦を強いられたが無事に撃退した。
 そう思われた。

 だが、魔族が絶命する直前に呪いをかけてきた。
 勇者を狙ったそれに気付いたレティシアは、彼を庇い呪いを受けてしまったのだ。

 子どもになり聖力すらも失ったレティシアを囲み、どうするべきかとあれやこれやと話す勇者一行。
 ところが、先ほどの魔族とは比べ物にならないほどの強大な力の持ち主が近づいてきたことを察知し、レティシアは今すぐここから逃げましょうと言った。

 結界もないまま戦うのは得策ではないと思ったのだ。

「分かった」

 そう大きく頷いた勇者は、何故かレティシアをその場に置き去りにした。