「ねぇ!」

彼女がいたのは屋上で、彼女はぼんやりと空を見つめていた。彼女は、ゆっくりと僕の方を向くと無表情で「何?」と問いかける。

「……ちょっと君と話したくて……」

僕が微笑むと、彼女は驚いた顔をした。すぐに無表情に戻ると「へぇ」と僕から顔を背ける。

「……僕、香月。同じ学年だよね……君は?」

「…………奈央(なお)。君、私のクラスで有名だよ。可哀想な子だって」

奈央は、そう言うと空を眺め始めた。僕は、奈央の隣に座る。

「そうだよね……ありのままの自分でいるだけなのにさ……」

「ありのまま、ねぇ……」

そう言って、奈央は黙り込んでしまった。しばらく黙っていると、奈央は「分からない」と呟く。

「え……?」

「本当の自分が、分からないんだ」

「そっか……じゃあ、僕と一緒に探そうよ」

僕が笑うと、奈央は顔を上げた。奈央は、嬉しそうに微笑む。

こう言ったのに、特に理由なんてない。自分の口からこんな言葉が出たのが不思議なくらいだ。

「ありがと……私、こんなこと言われたの初めてで……」

そう言って、奈央の瞳から涙が零れ落ちた。



あれから数年。高校生になった奈央は、見違えるほど明るくなった。