「結構人がいるね」
翼が少し緊張した顔で周りを見渡す。
「うわっ、びっくりした」
後ろのほうから声がして振り返ると知らない男性がこちらを見ている。
「いや、ごめん。噂は聞いていたけど実際に会うのは初めてでさ。楽しんでいきなよ」
そう言って男性は誰かと待ち合わせをしていたのか通り過ぎながら『悪い、遅れた』と手を振っていた。
外に出るようになって分かってきたのは、気軽に声をかけてくる人は意外と居るということだった。確かに怖がって叫ぶ人も居なくならないが、今のように何事もなかったかのように通り過ぎる人も沢山いた。
自分たちは周りを全く見ようとしていなかったのだ。
「よし」
翔は一言呟いて一歩足を進める。
「ビールだね」
「そうだな、まずはビールだ」
等間隔に並んだ屋台を歩きながらビールを売っているところを探す。
「たこ焼きだって、焼き立てだよ、食べたいかも」
「焼き鳥はビールに合いそうだな」
ほぼ初めてと言ってもいい祭りに参加して二人は気持ちが昂るのを感じる。



