「亮くんだ」
学校からの帰り道に見かけなかった日は少しだけ元気がなかった。亮一とその飼い犬を見かけた時は高揚した心を落ち着かせながら手を振っていた。
彼らは亮一たちに会うのを楽しみにしていたのだ。そして、楽しかった。
あの時間だけは自分たちのことも学校のことも検査のことも何も考えずに楽しんでいた。
そしてそれ以外のほとんどの時間は自分の感情を閉じ込めて、言われるがままの“自由”を過ごしていた。
〈これからもそういった小さな楽しいを経験すれば生きている心を感じることが出来ると思います。心が無くなりきってしまう前でよかったです〉
「僕たち、心が無くなりかけていたのかな」
「もしかしたら、無くなってたのかもしれないな」
呟いて少ししてからありがとうとお礼のメッセージを送った。
〈お礼なんていいんです。友人と同じ目をした小野寺さんたちを放っておけなかったんです。誰かを救って自分の存在意義を確認したかった、私のエゴなんです。だからまた、連絡してくださいね〉
その友人に何があったのか二人には知る由もなかったが由美も同じように何かに悩んでいたであろうことは理解した。
返事は送らずにスマートフォンの画面をオフにする。ベッドに横になった二人の顔は少しだけ穏やかだった。