翼の言葉を聞いて思い出したことがある。いつだったか読んでいた小説に書いてあった。
「私が居なくなったらあなたは悲しむ?」
「君が生きてさえいてくれれば、僕はそれだけで報われるんだ」
亮一とは離れてしまったが連絡を取り合えば彼の声を聞くことが出来る。亮一が死んでしまったならば声も聞こえなくなる。
消える。
存在しない。
ゾッとした。血液が冷え固まったかと思った。
翼が居なくなったら?説明の付かない背筋の震えを感じる。亮一と連絡が取れなくなったら?鼻の奥が熱くなる。
言葉では到底説明できない体の揺らぎを感じる。
天井を見つめていた翔は体を左に向ける。
「…その人が消えた時のことを考えて、涙が出るなら――…それが好きってことだよ。きっとな」
翼は体を右に向ける。向き合った二人の身体はしっかりと重なっている。
双子はそれぞれ気付いた存在を見つめているが体を重ねる翔と翼は二十二年間一度も触れ合ったことは無い。
そして二十二年間一度も大切な存在を見たことがないのだ。
それでも涙が出てくるのは二十二年間双子を支え続けた双子だから。
初めて兄と弟を見つけた二人はそのまま泣きつかれて子供の頃のように眠りについた。



