中学の頃だっただろうか、歩いて帰りたいと言って学校からの迎えの車から途中で降りた日があった。少し離れたところにスーツの男性、そしてハザードを炊きながらゆっくり進む車。

 自宅までの距離も短く人通りもまばらな道のために許可が下りたのだろうと思う。

 小石を蹴ってみたり、道路脇の排水溝を覗いたりしながら歩いていると中型の雑種犬と散歩をするお兄さんが見えた。その存在を視界にとらえるや否やスーツの男性は歩み寄ってきた。

 気にせずに通り過ぎようとしたところ、相手から話しかけてきたのだ。


「もしかして君たちが小野寺くん?」


 知らない人に話しかけられることなんて経験したことがなかった二人は戸惑い立ち止まる。恐怖は無かった。

「奥のほうに住んでるんだよね?双子くんがいるのは知ってたんだけどね。初めまして、牧亮一です」

 スーツの男性に目線を泳がせた。危険性がないと判断したのか挨拶するように促された。

「はじめまして、小野寺翔です」
「はじめまして、小野寺翼です、犬、触れる…?」


 翼は亮一とスーツの男性を交互に見る。

「いいよ、背中をなでてあげてくれる?」

 亮一は飼い犬を座らせて撫でやすいようにセッティングしてくれた。

 そんな少しの間だったが二人にはとても新鮮で、散歩と下校時間が合う時は必ず彼を見つけて車から降ろしてもらった。