「今日会った溝呂木が言ってたよ。
10年前の当時、姉の陽子と敦は仲が悪かったってね。
月子を自分だけのものにする為に、殺意まで浮かべるなんてな……」


麻美は、敦が言っていた言葉を思い出す。



敦が誰もいない教室にひとり残り、
行っていた『儀式』。

それはコックリさんとはまた違う、深い部分へと堕ちた『禁じられた遊び』だったのだろうと。




「あにき、
わたし、ひとつだけ気になる事があるんだけどさぁ……」


躊躇いながらそう言う麻美に、隆之は視線を移す。

「あの音楽室の窓…
子どもの背に比べて、少し高かったよね。」


不注意で落ちないようにと、高めに設計されたその窓。

手を付いたサンの位置が、高かった事を麻美は思い出す。



「体を乗り出していた月子ちゃんをいくら勢いよく後ろから押したと言っても、子どもだけの力であの高さから突き落とす事って出来たと思う?」

解ききれない疑問に麻美は不可解さを滲ませ、隆之に尋ねた。


「敦君の行った『儀式』が、関係したとでも……?」


隆之のその一言が、麻美の考えと重なりあう。




「……まさかね…」

麻美はその馬鹿げた考えを打ち消すように、小さく肩を竦めた。






今日も、いつもと変わらず瞬き始める街のネオン。


その中ーー

麻美は隆之と肩を並べて、溢れ出す人波の中にへと静かに消えていった。