「儀式だよ。
陽子と田畑を殺すね………」
バタバタと、宙を掴む陽子の手。
必死に開けた口からは、何も零れることはない。
「これで終わりだ……
さよなら。
陽子ーーー」
「敦君、やめて!」
陽子を殺そうとした瞬間、その手をかける敦を止めたのは、隆之に肩を支えられた麻美だった。
痛みに顔を歪ませ、大きな声で叫ぶ。
「話、聞いたよ。
これ以上、罪を重ねてどうするの。
もうやめて!
死んだ月子ちゃんだってそんな事望んでないよ。」
その手に握った小さな指輪を敦に見せ、言葉を続けた。
「さっき、理科室で見つけたの。
田畑さんの持ち物から、大事にしまわれた封筒に入っていた手紙と家族写真。
その裏にこのおもちゃの指輪が張り付けてあったわ。」
10年の時を経て、古ぼけてしまったその指輪。
だが、そこに込められた気持ちは変わらないように見える。
「どうして…それを?」
驚く敦は、動揺を隠せなかった。
10年前月子が救急車に乗せられた時、その指には何故か指輪がなかった。
運ばれるひょうしで外れて、どこかにいったものだと敦は思っていたのだが…
「田畑さんが、敦君に宛てた手紙読ませてもらったの。
10年前のあの日、本当は今までの事を敦君に謝りに、学校を訪れていたってね。
それがあんな形になってしまい悪い事をしたって、その想いが手紙にたくさん綴られていたよ。」
酒の力を借りなければ、何もできなかった田畑。
実の息子に謝る時にさえも……
敦の居場所を聞こうと呼び止めた女の子達を、酔っていたせいで反対に怖がらせてしまった事。
追い詰めて動揺してしまった月子が、自分の目の前で敦に突き落とされてしまい、怖くなって逃げ出してしまった事。
すべては、自分のせいだったと。
敦に宛てられた、様々な想いがそこに綴られていた。



