「コックリさんかぁ……」
淡いピンクをベースにした、バスルーム。
すらりと伸びた体を湯船預け、麻美はそう呟く。
幼い頃、
わたしもドキドキしながら、友達としていたっけ…
バスルームに広がるお気に入りのローズの香りが、仄かに火照った麻美の体を優しく包み込む。
この時期、ほっとけば1時間でも2時間でも湯船に入っている麻美。
MDや雑誌など持ち込めば、あっという間に時間が過ぎていく。
ゆっくり浸した桃色に染まる手のひらから小さな泡が零れ、パチンとはじけ消えた。
『コックリさんに、あっくんの好きな子の名前を聞こうと思って…』
恥ずかしそうに敦を見ながら、月子はそう言った。
『だけど、教えてもらえなかったの。
コックリさん、動いてくれなくって。
そのすぐ後に、田畑が現れたんだ……』
当時、そういった変質者が多かった事も麻美は記憶していた。
両親の仕事の都合で、幼い頃から各地を転々としていた麻美。
行く先々で、やはりそんな話題を耳にしなかったという事が無かったと思う。
子どもを狙う影。
いつの時代でも許されてはいけない、重い犯罪であった。
吉祥寺のダイニングバーを出た後、名残惜しそうにしていた月子と敦。
少しの時間でも、離れていたくなさそうだった。
そんな敦が、帰り際に麻美に告げた言葉。
目の前を歩く月子と隆之の背中をジッと見つめながら。
「月子が怖がるといけないから言わなかったんだけど、実は俺見たんだ。
駅のホームで月子を突き飛ばそうとした奴の顔……
アイツだった。」
そう言いながら微動だにしない、敦の表情。
「月子、昔から思い込み激しくて。
陽子の事あってから、特に酷くなってさ。
言うのも心配だろ……」



