死者の声が聞こえてくるなど、非科学的で説明のしようのない出来事にフィオナはサルビアをただ見つめるしかできなかった。サルビアは、ナイフを振り上げたまま固まっている。その体は小刻みに震えていた。まるで誰かがサルビアを抱き締めているかのような光景が、フィオナの頭に浮かぶ。

「……ッ……何で……!」

サルビアの声が震え、ナイフが床に転がり落ちる。フリージアが素早くナイフを回収し、フィオナはサルビアの元へと走った。

サルビアの体から力が抜け、床に座り込む。そしてサルビアは、声を震わせて泣いていた。その姿は、まるで母親とはぐれた小さな子どものように見える。

「何でこんな時に、先生との約束、思い出すんだよ……」

泣き続けるサルビアの頭を、気が付けばフィオナは優しく触れていた。サルビアは目を見開き、フィオナの行動にエヴァンたちもどこか驚いている。しかし、それらに目もくれずフィオナは淡々と言った。

「あなたがその手を血で汚さなくてよかった。……何故か、そう心の底から思うんです」

サルビアは声を上げてまた泣き始める。そこへ、待機していたはずのレイモンドとシオンが走って来た。

「みんな、お疲れ様。サルビアの心のケアは僕らに任せて」

レイモンドがそう言い、エヴァンが「お願いします」と真剣な目で言う。フィオナたちも同じような目でレイモンドを見つめた。その後ろで、サルビアはシオンに抱き締められている。

サルビアの涙が、この事件の終わりを告げた。