笑顔を絶やさない酒井一樹とはたまたま出かけた先で出会った。
 休日に立ち寄ったコンビニから数分歩いたところで職場の後輩を見つける。そこに一緒にいたのがその後輩の兄だという一樹だった。

 年が近いんだから連絡先でも交換すればいいじゃないですか。なんて言う後輩は最初から二人の間柄を楽しんでいたのだと思う。
 三つ年上だったのだから、一つ年下の後輩のほうがよほど年が近かった。

 後で聞いた話だが、数年間彼女がいなかった兄に希子を紹介したいと少し前から思っていたようだ。

 連絡先を交換した二人は、後輩を含めて三人で遊びに行くことが増えていき、次第に二人だけで会うことが殆どになった。

 正式にお付き合いを開始することになったのは家族参加OKになっている会社主催のバーベキュー会場。

 肉も野菜も思う存分食べた希子は日の沈みかけた河原で時折見える小魚を目で追っていた。

 炭火を見張っていた一樹は周りの誰かにそれを託し希子の元へ走り寄る。

「絶対大丈夫だぞ」

 走りながら聞こえてきた誰かの言葉を後ろ手に掃いながら静かにしろとジェスチャーをする一樹。
 八月末の天候のいい日だ。

 その時はひどく汗をかいている理由をまだ気温が高いし火の近くにいたからとしていたが、口から肺が出てきそうなほど緊張して苦しかったそう。

 何の前置きもなく右隣に立って希子と同じように川を眺めた一樹は『俺と付き合ってください』とだけ言った。

 ちらりと視線を一樹に寄せた希子は、また正面を向き直して『はい』とだけ言う。小さく右手でガッツポーズを取った一樹を見て後輩がよっしゃ!と叫んだそうだが希子には恥ずかしすぎて聞こえていなかった。