夜には京子の特別な昔話をしてもらった。

「昔々あるところに、孝臣おじいさんと京子おばあさんがいました」

 必ずその言葉から始まる昔話だったのだが、自分の父親と母親が白髭、白髪のおばあちゃんになって立っているところを想像するだけで笑いが止まらなかった。

 そして希子のお気に入りの抑揚の付いた台詞で物語が始まっていく。

「た~かおみおじいちゃんは~?山へっ!芝刈りに~出発進行しました~。京子オバアチャンハカワヘセンタクニイキマシタ!」

 口を大きく開けて、次の母親のセリフは何だろうかと強いまなざしで京子の顔を見ていたのを覚えている。

「ありゃ~ま~!ま~!ままままま!モモがどんどんぶらぶらどんぶらどんぶらコッコー!」

 あまりに楽しすぎて脳の芯まで興奮してしまい眠れなくなり、昔話を中断してしまうことも多々あった。

 小学校の教科書をもらった希子はわくわくしていた。国語の教科書に沢山の物語が書かれていたから。

 絵本を読む楽しみを覚えてからはひらがなが読めるまでにそう時間はかからなかった。漢字を書くのは苦手だったが、漢字を読めるようになるのも早かった。

 小学一年生や二年生の国語の教科書には今まで読んだことのある物語が多かったが、三年生、四年生と学年が上がっていくにつれて希子の知らない物語が掲載されることが多くなってくる。

 楽しいだけの物語ではないことも少しだけ増えてきた。主人公やその友達の心情を感じ取るのがうまくなり、もっとたくさんの物語を読みたくなった。

 小学校高学年になるころには絵本は買うことは無くなったが、少し活字の多い読書向きの本を買ってもらうことも増える。

 決して頻繁に買ってもらえたわけではないが、こんぺいとうの冒険シリーズを買おうとか、太陽と湖の恋物語だとか、毎回新しい物語を楽しみにしていた。

 小学生の希子は様々な物語を読んでいつも興奮して、時々涙を流して、感情を覚えていった。