一樹と付き合い始めて二年程が経っていた。
希子は相変わらず物語が好き。文庫本を手に取ったあの日から変わらず。
テレビゲームの世界だけではなく、本の中にもファンタジーな世界があることも知った。
ハードカバーの本を読む楽しさも、それが綺麗に並ぶ本棚を眺めているのも好きだった。
そんな中、人に流され続ける日常も変わらなかった。
「料理は片付けまでが料理なんだって」
そう言って家具専門店の調理器具売り場を歩く希子。
「あった、これこれ」
希子が手に取ったのは鍋に残った汚れを落とすスクレーパーだった。
「カレーを作った後の鍋を洗う前に使うって言ってたやつか」
シリコン製のスクレーパーをぐにぐにと曲げながら一樹が呟いた。
「ほかに何が欲しいんだったっけ?」
「一樹くん最近ワインを飲むことが多いでしょ?ワインの栓を買おうと思って。
私もいつも一緒に飲めるわけじゃないし、余って風味が落ちちゃうのもなんだか勿体ないでしょう?」
あとね、と続ける。
「野菜の皮をむくピーラーもちょっとだけ良いものに変えようかと思って。
飾り包丁とかする時に役立ちそうだったから」
「あぁ、野菜の切り方が書いてた本あったね。千切り、いちょう切り、短冊切り、形があるのは知っていたけど名前があるのは知らなかったなぁ。あの本は先輩から貰ったんだっけ?」
「貰ったと言うか、奥さんが料理に目覚めたって話を聞いて私も気になったんだよね」



