早朝、巻田文也は閑散とした街路を、行く当てもなく歩いていた。

店のシャッターは下品な落書きで埋め尽くされ、道路の脇にはゴミが散乱している。

この時間は、昇り始めて間もない太陽が、いつ来ても荒れているこの町全体を、薄い光で照らす。

文也は、この町をこの時間帯に訪れることが好きだった。

自分以外、誰一人として出歩いている者はいない。
日中、嫌というほど浴びる人の視線は、今はない。

あのうっとうしさから解放されるのは、あの薄暗い部屋か、この時間の町中だけだ。

文也はゆっくりと息を吸った。

時間が進まなければいい。
ぼんやりと、文也はそう思った。