ソーダ水に溺れる


「だって、好きな男と行きたいんでしょ」


どくん、と心臓がこれ以上ないほど大きく跳ねた。


覗き込まれた顔。
至近距離で交わる視線。


思わずぴたりとその場から動けなくなってしまうほどには動揺していた。

偶然にもそこは行きにハマりそうになった水たまりのそば。


呆然としたまま水瀬を見つめていれば、


「だから、俺と行く?」



微かな揶揄を孕んであたしの気持ちなんて見透かしたようにわらう。その顔は、おかしくなるくらい心音が鳴り止まないからきらいだ。


あくまで決定権はあたしに委ねてそう訊く彼はどこまでもずるい。



風が通り過ぎる。いつのまにか髪の毛は乾いていた。

手首に伝う半透明の水色をよそに、小さく首を縦に動かすと、不敵にわらった彼の月より明るい髪が目の前で揺れて頬を掠めた。


街灯、ソーダアイスのみずたまり、重なる影。




遠くで、静かに溺れる音がした。