「わたしはまだいいや」

誰かを好きになることがこの先わたしにはあるんだろうか。

わたしは誰かを愛することができるんだろうか。



「そういえば例の彼は?」

「例の彼って?」

「ほら、入学式のときに話しかけてきた!」

「ああ…とくになにもないよ」

そういうと遥は残念そうに「えー」と口にした。


例の彼。水上大輝。

たしかに彼とは廊下ですれ違うたびに挨拶はする。

クラスも違う彼とそんな関係になったのは、ほんの些細な出来事がきっかけだった。