あの夏、わたしはキミに恋をした。


「まあ大丈夫、前に向かって走ってればあっという間に終わるから」

「あはは、なにそれ」

「ほら、俺たちもベースまでは全力疾走だろ?俺も足はやいほうじゃないからさ、毎回死にそうになりながら走るんだ。でも前に向かって走ってたらあっという間でさ、最近は風が気持ちいいなとかあのおうちの夕飯カレーかなとかそういうの考えながら走れるようになったんだよ」

「そんなこと考えながら走ってるんだね」

「あんな遅くまで練習してると、腹へるし。いいなって思っちゃって」

たしかに気づけば毎日真っ暗で。

試合前よりは早く帰ってはいるけどそれでも野球部の帰りはほかの部活よりも格段に遅い。

そういえばわたしもマネージャーの仕事しながらカレーのいいにおいするなって思うことあったっけな。


「って、そんなこといいたいんじゃなくて、まあ木下さんも大丈夫ってこと。そのときを全力で走って、風気持ちいい!って思いながらさ、楽しめばいいんだよ。青春をさ」

「上野くんって…なんか面白いね」

「いまさら気づいたのか?」

「うん」

あちゃー。

上野くんはわかりやすく肩をがくっと落とした。

やっぱり面白い人だ。


「まあ俺の面白さは置いといて、今日もよろしくな。マネの仕事つらかったらいつでも相談していいから。俺から監督にいってもいいし、後輩にも声かけるから」

さっきまでと違って急に真面目な顔になるんだから、やっぱり上野くんはキャプテンなんだなと思う。

まわりをよくみていてマネージャーのわたしのことまで気にかけてくれるんだから。

「うん、大丈夫だよ。キャプテンも今日も頑張って!」

「おう」

上野くんと部室前でわかれたあと、わたしはマネ専用の部室にはいる。

ここは男子バスケ部マネ、サッカー部マネ、野球部マネなど、男子の部活のマネージャーをやっている人専用の部室だ。

さすがに男子と同じ部室を使うわけにもいかないしね。