障害物競走。
パン齧ったり、粉の中から飴を見つけたり、網の中を潜ったりする競技。
外に出て応援する人が9割。
気分が悪かったり体調が優れない子がいてテントの中にいる人が1割。
体調は悪くないのにただ「体育祭がだるい」という理由で休んでるのは私だけかもしれない。
だるいとは思ってもみんな頑張ってる。
玉入れが終わってからスマホを見たらママからメールが来ていた。
『近いうちに必ず家に来て』
何かあったのか、それとも何かされるのか不安で不安でたまらない。
やっと勇斗さんのおかげで気が楽になって暮らせているのに、それが壊れるんじゃないかって不安。
そう思ったら、勇斗さん、いや、和藤先生が私の目の前にいる。
なんでここに?
タイミングが合いすぎてびっくりして一瞬息が止まった。
「霧野さん、ちょっと協力してくれないかな」
「えっ」
手を掴まれて、和藤先生が走るから私も走ってグラウンドに向かってゴールテープを切った。
何が起こったか分からずにぽかんとしてると、
「いきなりごめんね?」
「先生、障害物競走に出てたの?」
和藤先生の顔には粉がたくさんついていてちょっと面白い、ちょっとだけ。
「そうそう、それで紙に2年生の青組の女の子って書いてあったから霧野さんを選んだんだ」
「そうなんだ」
青組の2年生の女の子って沢山いるけど、それでも私を選んでくれたことがちょっと嬉しい。
まぁ、一緒に暮らしているし私の方が誘いやすいんだと思う。
それにしても赤のシャツに黒い文字で、
「燃えろ!最後まで諦めるな!」
と大きくプリントされているシャツを着ていて、顔に粉がついてる先生はやっぱり面白い。
そう言われれば、一緒にご飯を食べる時に、「俺、紅組なんだ〜、絶対に負けないぞ!」
と、小学生みたいな口調で言ってた。
しかもその時食べてたのがハンバーグだったから余計に小学生に見えたんだった。
絶対に負けたくないから顔全体に粉付くまで頑張ったんだ、そう思うと抑えられない。
「ハハッ」
「どうした?」
「先生、早く顔洗ってください、めっちゃ粉付いてるから」
「もう、笑わないの」
「だって…先生必死に頑張って1位取ったんですよね、それが先生らしくないというか、、」
「大人でも1位を取りたいものだよ、それに何事も楽しんではしゃぐことも大人に必要!バカにして欲しくないな〜」
「ハハッ、ごめん」
「もう顔見て笑われたくないから戻る!」
拗ねてその場を去った和藤先生。
その背中が可愛く見えた。


