私は1人じゃない





「家広いじゃん〜〜テレビも大きいし!!」


自分の家かようにくつろいでいる朱莉。


朱莉にとっては先生なのに何も緊張してない。


私はまだちょっと緊張してしまうというのに。


「何飲む?」
「なんでもいいよ」


「じゃ、オレンジジュースね」
「はーい」


「杏衣、ここで2人で過ごしてるの?」


勇斗さんがシャワーを浴びている間に朱莉が聞いてくる。


「まぁそうだね、自分の部屋もあるからそこで過ごすこともあるし自由かな」
「いいね、ほんと自分の家みたい」



「そうだね、勇斗さんにはありがたいと思ってる」
「勇斗さんって呼んでるんだ〜」


「そうだよ」
「へぇ〜」


「何その顔」

朱莉が不思議そうな顔でこっちを見ている。


にやけている訳じゃない、ただ目を少し丸くさせているなにかを疑問に思っているような顔。


「異性大丈夫になったの?」
「え?」


朱莉から言われて気付いた。


幼い頃からママと2人で暮らしていたから家の中に男性がいるだけで緊張してた。


男性が嫌いというわけではなくて、ただ緊張する。


「勇斗さんは……大丈夫かなあ、緊張はあまりしない」
「手とか触れても?」


「まずそんなに触れないし、丁度いい距離感だよ」
「好きになっちゃうとかない?」


「ないかな、だいぶ年上だし先生だし、そういう目で見たことないよ」
「年齢は関係ないよ、気持ちだよ気持ち!
それに先生は歳のわりには若く見えるし、優しそうだしかっこいいからさ」


朱莉の言う通り魅力があって女子にはモテると思う。


でも男性と話してもいいところはある、から好きという気持ちの流れにならない。


なんか心にフィルターがかかっている感じ。


「朱莉になら分かるでしょ、私は……」
「分かるよ、杏衣の気持ち分かるけど、桜介と付き合ってて気付いた、愛はマイナスの気持ちを全て覆ってなかったことのように、もうどうでもいいやってなるの、好きな人が隣にいればそれで幸せになる。杏衣にはそれを味わって欲しい。」



愛情は、マイナスの気持ちを覆う。


私が今まで受けて来た傷や孤独感。


無かったことにはできないけど、なかったかのようにはできる。


「その相手が近くにいるか遠くにいるかは分からないけどね〜〜」


キリッとした表情からまたくつろぎ出した朱莉。


過去は無かったようにしたい。