「ピンポーンピンポンピンポン」


俺は何を思ったのか病院には連れて行かなかった。


「なんだよ」
「ちょっと急用」


「急用って、誰この子」
「近くの広場で倒れてた」



「病院に運ぶべきだろ」
「事情は診てもらってから」



「朝から当直なのになー」
「近いうちに酒奢るから頼む」


「はいはい」


俺の大学の同期。早坂雅紀。


内科医で頭はいいが、結構アニメオタク。


でもいい奴でたまたま同じマンションに住んでいるからちょくちょく会っている。



リビングのソファに女の子を寝かせて、早坂が胸に聴診器を置こうとした時。


「まじか」


お腹にも傷があった。


「これはグーで殴られてる」
「背中もすごかった」



「うわぁ、これは……病院には連れて行けない理由が分かった」
「だろ、頼む」


早坂が女の子の具合を見て、


「熱中症というよりショック状態かな、安静にしていれば目は覚ます」
「そうか、ありがと」



「この子の家分かるのか?」
「いや、分かんない、広場で見つけて連れてきたから」



「いい奴だなあ、本当に、どうするんだよ」
「まず俺の家で目覚ますまで寝かせるしかない」


「部屋は寒すぎない程度にエアコンつけて、それとショック状態が深刻だから何があったのかは聞かない方がいい、思い出してまた倒れるかも」
「そうだな」



この傷を見ると、「悲しい」だけでは表現できない何かがこの子にあった。


それも長期間この子なりに耐えてきたんだろう。


ーーーこの子を守りたい。


強くそう思った。