これまで何度、母にきつい言葉を言ってしまっただろう。



『どうせ私のことなんてどうでもいいくせに!』



母の言葉には耳も傾けず、自分の思いばかりをぶつけただろう。



病院に搬送され手術室の外で母を待つあいだ、そんな自分のこれまでの行いを悔やみ、次第に怖くなった。

このまま母を亡くしてしまったらどうしよう、と。



「『庇ってくれてありがとう』も『今までごめん』も言えないまま、このまま母を亡くしてしまったらどうしようって怖くて不安で……そんなとき励ましてくれたのが、由岐先生だったんです」

「俺……?」



不思議そうに私を見た彼に、小さく頷く。



『大丈夫だ』



そう言って頭を撫でてくれた、母を助けると約束してくれた。

その優しさと頼もしさが今にも折れそうだったこの心を救ってくれた。



「由岐先生が『大丈夫』って励ましてくれて、母を助けてくれたから……私はそのあと母に謝ることができたし、向き合うこともできた」



あの日あなたがいてくれたから、私は今悔やむことなくここに居られてる。



「それからずっと、心に由岐先生の存在が残ってたんです。それはいつしか恋になって、追いかけるようにあの病院に入って……だからこそ、再会したら止まれなかった」



ずっと好きだった。

ずっと、ずっと、その気持ちは今この瞬間も。



こぼれ出す言葉に、ふと喋りすぎてしまったことに気付いた。



「……まぁ、もう過去の話ですけど」



最後に嘘を付け足して、自分の心を抑え込んだ。