「楽しそうなもんだな」



すると背後から、聞き覚えのある低い声が響く。

その声に足を止め振り向くと、そこにいたのは智成さんだ。

不機嫌そうなその顔は頬がかずかに腫れており、それを隠すように湿布が貼られている。



「智成さん……どうしたんですか、その顔」

「どうしたもこうしたも、殴られたんだよ!徹也に!」

「え!?」



由岐先生に!?

普段の冷静さから、手を出すタイプには思えないけど……よほどのなにかがあったのだろうか。

驚きを隠せない私に、智成さんはチッと不服そうに舌打ちをした。



「この前アンタが去った後、畳みかけてやろうと思って徹也に『あの子はどうせ母親を治した医者であるお前に憧れてただけなんだ』って言ってやったんだよ。

そしたら殴ってきやがって……図星だからって普通殴るかよ」



私のこと、で……。

でもどうして、殴りかかるほど怒ったの?



私が戸惑いを隠せずにいるのを見て、それまでの彼ならきっと笑っただろう。けれど予想に反して、バツが悪そうに頭をかいた。



「……けどまぁ、アンタがまさか泣くとは思わなかったから。嘘ついて悪かったとは、思った」

「嘘……?」



って、なんのこと……?

謝り慣れていないのだろう、ぶっきらぼうな言い方で智成さんは白状するように言った。