俺、って……あの日私を励ましてくれたのも、母を助けてくれたのも、智成さんだったということ?

それはつまり、由岐先生が嘘をついていたということ?



どうして、なんで。

彼の言葉を受け入れられず、頭が混乱してしまう。



「もしかして、それがきっかけで徹也のことが好きになった、とかだった?」



図星を指され黙る私に、智成さんは「ははっ」と笑った。



「救われたとか言って相手が誰かすら覚えてないなんて、記憶なんてあてにならないよなぁ」



……私、ずっと勘違いしてた?



ううん、そんなわけない。

だって由岐先生は再会した夜、私のことを覚えてくれていた。

だから私はこれまでずっと、私と母を救ってくれたのは彼だと信じて疑わなかった。



だけど、確証や証拠はない。

確実なのは、彼が当時研修医で、私はその時顔を見ていなくて。



「けど、俺の手術を自分の手柄にするなんて。そんなくだらない見栄張るようなこと、お前でもあるんだな」



まるで本人に対してのような言い方に一瞬違和感を覚え、はっとして振り向くと、そこには由岐先生がいた。

彼は私たちの話を聞いていたようで、険しい表情を見せる。



「嘘、ですよね……由岐先生」



恐る恐る問いかけた、けれど由岐先生は視線を下へ向けて黙ったまま。

その反応は、事実と認めているようなものだ。