「ーーボンジョルノ、セニョリータ」
不意に玄関ホールから、立派な制服に身をつつみ背筋を伸ばしたドアマンが声をかけてきた。
意味は、「こんにちは、お嬢さん」という意味って分かっているけれど、
どうも本物の滑らかなイタリア語で、しかも金髪でカッコイイ外国人から言われてしまうと、慣れていない私は固まってしまう。
そんな私を気にすることなく、ドアマンは私の大きなスーツケースを手にして、エスコートするようにロビーの中へ案内した。
「わぁ…」
広々としたロビーは吹き抜けになっていて、天井のガラス窓から柔らかい陽光が差し込んでいた。
フロアには高価そうな黒革のソファが並べられ、白の大理石の床や壁とのコントラストが美しい。
そして甘い薔薇のような香りと優雅なクラシック音がそのロビーを包み込んでいる。
《ただ今、受付が混み合っているため少々こちらのソファーでお待ちください》
ドアマンは聞き取りやすい英語で私にそう話しかけて、微笑むなり、仕事の持ち場へ戻っていった。
彼に会釈するどころか、「ありがとう」の一言も言えてない。
完全にこのリッチな空間に圧倒されている。
自分がこんなところにいていいのか心が落ち着かない。
ドギマギしながら、ソファに腰掛けた。
