*
「俺と鮫都はアーメイ家の都とやらに行く。お前らどうする」
馬車のような乗り物から出てきた渋賀が宣言した。鮫都はどこか不満そうな顔をしていた。
「俺はバスに戻るよ……ちょっと気分が悪い」
痩せ型のオタク、紙本が口を押さえながら答えた。
「俺は行く。楽しそうじゃん」
そう答えたのは小太りのオタク、田端だった。紙本と仲の良い田端がそう答えたのは紙本にはショックだったらしく、普段は出さないような大きな声を出した。
「田端、嘘だろ? バス戻ろうよ」
「だって、救世主だとよ。さ、最高じゃん」
興奮気味な田端に、紙本はたじろいだ。
「田端お前びびってるだけだったのに大丈夫なのかよ。というか久住、お前も来てたんだな」
渋賀が一真の存在に気づいた。
「久住も一匹怪物倒したんだ。凄いよね」
田辺マークが倒れている蛇を指差しながら言うと、鮫都は驚いた。
「へえ、それは凄いな。じゃあお前も来るか? 子分にしてやるよ」
鮫都の放った屈辱的な言葉で一真の顔は熱くなった。指先が震えるのを感じる。しかし。
「俺は、戻るよ」
何も出来なかった。
渋賀が蛇を殴った時、一瞬緑の閃光が走ったのを一真は見ていた。そして、死んだ蛇の腹をよく見ると、小さな穴が空いていた。渋賀は一真と同じように、未知の力を手に入れた可能性が高い。殴りかかろうものなら共倒れ、もしくは返り討ちに遭うかも知れない。今はまだ動くべきではない。一真はそう自分に言い聞かせた。
「この世界なら天下取れるかも知れないのに勿体ねえな」
渋賀は呆れたような顔をして言った。一真は黙って下を向いていた。
都に向かうのは童顔な少年、寺田光一を加えた四人になった。渋賀は蛇たちの乗っていた巨大な鶏に跨り、手綱を握った。
「なんとか乗りこなせそうだな。それじゃお前ら。頑張れよ」
心にもない事を言い残して渋賀達は去って行った。
一真、紙本、マークの三人は無言で見送った。
「遺体をそのままにして行くなんて……」
「ちょっと酷いよな。埋めてあげるか」
小さく呟く紙本にマークが提案した。
三人は穴を掘り、全ての亡骸を地面に埋めた。
「いやあ、でもさっき、俺もちょっと行こうかと思っちゃったよ。でも女子いないし微妙だよねえ。じゃ、戻ろうか」
アメリカ人と日本人のハーフであるマークはそう言って笑った。楽観的な男だと一真は思った。
三人はバスに向かって歩き出した。
「田端、結局長い物に巻かれるタイプなんだな……」
道すがら、紙本は落ち込んでいた。
(落ち込む気持ちは分かる。俺も気分は最悪だよ。でもこの世界でなら——変われる気がする)
一真はどす黒い感情を胸に秘め、崖をよじ登った。
「俺と鮫都はアーメイ家の都とやらに行く。お前らどうする」
馬車のような乗り物から出てきた渋賀が宣言した。鮫都はどこか不満そうな顔をしていた。
「俺はバスに戻るよ……ちょっと気分が悪い」
痩せ型のオタク、紙本が口を押さえながら答えた。
「俺は行く。楽しそうじゃん」
そう答えたのは小太りのオタク、田端だった。紙本と仲の良い田端がそう答えたのは紙本にはショックだったらしく、普段は出さないような大きな声を出した。
「田端、嘘だろ? バス戻ろうよ」
「だって、救世主だとよ。さ、最高じゃん」
興奮気味な田端に、紙本はたじろいだ。
「田端お前びびってるだけだったのに大丈夫なのかよ。というか久住、お前も来てたんだな」
渋賀が一真の存在に気づいた。
「久住も一匹怪物倒したんだ。凄いよね」
田辺マークが倒れている蛇を指差しながら言うと、鮫都は驚いた。
「へえ、それは凄いな。じゃあお前も来るか? 子分にしてやるよ」
鮫都の放った屈辱的な言葉で一真の顔は熱くなった。指先が震えるのを感じる。しかし。
「俺は、戻るよ」
何も出来なかった。
渋賀が蛇を殴った時、一瞬緑の閃光が走ったのを一真は見ていた。そして、死んだ蛇の腹をよく見ると、小さな穴が空いていた。渋賀は一真と同じように、未知の力を手に入れた可能性が高い。殴りかかろうものなら共倒れ、もしくは返り討ちに遭うかも知れない。今はまだ動くべきではない。一真はそう自分に言い聞かせた。
「この世界なら天下取れるかも知れないのに勿体ねえな」
渋賀は呆れたような顔をして言った。一真は黙って下を向いていた。
都に向かうのは童顔な少年、寺田光一を加えた四人になった。渋賀は蛇たちの乗っていた巨大な鶏に跨り、手綱を握った。
「なんとか乗りこなせそうだな。それじゃお前ら。頑張れよ」
心にもない事を言い残して渋賀達は去って行った。
一真、紙本、マークの三人は無言で見送った。
「遺体をそのままにして行くなんて……」
「ちょっと酷いよな。埋めてあげるか」
小さく呟く紙本にマークが提案した。
三人は穴を掘り、全ての亡骸を地面に埋めた。
「いやあ、でもさっき、俺もちょっと行こうかと思っちゃったよ。でも女子いないし微妙だよねえ。じゃ、戻ろうか」
アメリカ人と日本人のハーフであるマークはそう言って笑った。楽観的な男だと一真は思った。
三人はバスに向かって歩き出した。
「田端、結局長い物に巻かれるタイプなんだな……」
道すがら、紙本は落ち込んでいた。
(落ち込む気持ちは分かる。俺も気分は最悪だよ。でもこの世界でなら——変われる気がする)
一真はどす黒い感情を胸に秘め、崖をよじ登った。
