久住一真(くずみかずま)は憂鬱な気持ちでバスに揺られていた。
 今日は林間学校。烏里うさと高校二年三組を乗せたバスは滋賀県へ向かっていた。
 隣に座っている東條聡実(とうじょう)さとみは学校を休みがちで友人はいなく、なぜ修学旅行に来たのか一真は不思議だった。一真もクラスに友人が一人もいなかったが、毎日しっかり登校していたため、林間学校も来ざるを得なかった。
 隣の東條に話しかける事を一瞬考えたが、すぐに思い直した。孤独な者同士で喋っていたら、他者からは傷の舐め合いにしか見えないだろう。それは一真のちっぽけなプライドが許さなかった。
 前方が何やら騒がしい。渋賀と鮫都だ。一真を見下し、時に嫌がらせをしてくる二人。忌まわしい声に耳を塞ぎたくなる。

「来るんじゃなかったか……」

 思わず呟いた。
 ここには見えない階級が存在した。階級によって発していい声の大きさが違う。教室より狭いせいでより顕著に感じる。
 一真は目を閉じた。もう二度と目が冷めなくてもいい。そんな事を考えながら、一真は眠りについた。





 何かが弾けるような音が頭の中に響き、一真は目を開けた。
 バスは停車していた。一真が外を見ると、見慣れない形状の木がまばらに生えていた。

「ハハハ。どこだよここ、あの世か?」

 後ろの席で小太りの男子、田端が騒いでいる。

「ええと、東條さん。何があったの?」
「バ、バスが崖から、落ちた……」

 勇気を出して聞いてみると、東條は不安そうな顔で答えた。