たった今すれ違った男、私に意識を飛ばして来たけど、邪気に満ちていて思わず拒絶してしまい、読み取れなかった。なんだろ、この悪気に満ちた意識。犯罪者かな。全く印象に残らない特徴の無い男性だったけれど。
 今後またすれ違う機会はあるんだろうか。あったとしても無いとしても放っておいて良いものか不安になった。このまま放っておくとあいつは誰かを傷付けたり不幸にしたりし続けるに違いない。人ごみに紛れてしまったけど見つけ出さずにはいられない気持ちになった。
 悪気を辿ってみる。前方の視界が黒雲のような悪気に溢れている。あそこかな。速足で歩いた。ダメだ、居ない。失敗した。拒絶するんじゃなかった。私もまだまだ修行が足りないな。

 翌日になって同じ時間にまた同じ道を歩いてみた。駅前なので様々な商業施設がある一角のパチンコ屋の前を通り過ぎた時、パチンコのガチャガチャした音とは異質の金属を引っ掻くような耳障りな音が店内から聞こえて来た。昨日聞こえた音だろうか。音の中の悪気を辿ってみた。目を閉じるとパチンコ屋の店内が見えた。音のする方へ移動する。
 居た。昨日の男だ。何だこの悪気は。犯罪者に近い雑音。精神異常者ではないようだ。
 パチンコのこの音は私には耐えられないうるささだけれど、この男をどうにかしないと誰かが苦しむような気がして、探らずにはいられない。
 意識の中に入り込む。
 マンションの部屋に女性が居る。そして猫が数匹。この女性は奥さんかな。酷く腹を立てている様子が伝わって来る。
 この男、女性が話す内容を受け止めてない。その上頭の中には蜘蛛の巣のように張り巡らされた悪気で、その女性を雁字搦めにしようとしているのが伝わって来た。女性を利用しようとしている? 女性の何を?
 男の意識の中に居る女性は輝いていて、社会的にもステイタスがあるように見える。なのに何だこの男の人間力の低さは。前世はゴキブリか何かだったのかな。
 あ、見えた! この男、ヒモだ! 女性の金をあてにしてろくに働きもせず、フラフラしている。パチンコ屋の店員ではないのか? クビになった? あ、たった今クビになった。今日が最後の勤務日だったわけね。
 そっか、それで女性が腹を立てていたのか。
 働かない男は生きている価値が無い。しかも女の金をあてにするなんてクズ以下だ。
 お仕置きだな。
 家に帰ったら風呂にでも沈めてやろう。女性のほうはこの男が居ないほうが絶対に幸せだ。

一丁上がり。