―陽花side—

これで私の役目は終わった。これからどうしようか。葵はもう私の隣では笑ってくれない。葵の隣に私は立てないのだから。

「お、紫吹、そんな顔してどうした。」
「もみじ…。」

「朝早くから来るなんてさすがは紫吹だな。お前はクラスでも人気があるから頑張ってくれるのは嬉しいが無理はするなよ。」




なんでこんなときに、もみじなんかに会うのよ。





「もみじも朝から大変だね。仕事なんて。」
「バカ言え。俺は大人だぞ。仕事するために来ているんだ。」

「ふうん。私暇だから付き合ってあげる。」

「そういや、最近お前ら一緒にいないよな。」
「お前ら…?ああ、葵のこと?」

「去年までは朝も帰りも一緒にいただろ。ついに卒業か?」



「もう……葵は私だけの葵じゃなくなったから。私は一緒にはいられないよ。」

「本当にそうなのか?」


「え…?」

「お前らに何があったのか知らねえけど一緒にいられないなんてことはないだろ。今までずっと支えあってきたんだから。」


「もみじにはわからないよ。私の気持ちなんて。ずっと自分の側にあったものが突然離れていくなんて。」


「たしかにそれは分からねえけど、大切なものを手に入れられない辛さならわかるぞ。こう見えても俺は長男だったからな。我慢することも多かったし弟たちが欲しがってるときは譲ってやらなきゃいけねえし。大切だと思った瞬間手放さなきゃいけなくなる。ほんと、辛いよな。」


「はいはい、もみじに話した私がばかでした。もみじは気楽でいいよね。恋なんてしたことなさそうだし必要なさそうで。」
「恋ならしてるぞ。」

「そうでしょうね、恋なんて体育バカには関係ない……って、恋してるの!?」
「ああ。」


「体育バカのもみじが恋?どうせ、病院の看護師に優しくされたとか、幼馴染と遊んでるのを勘違いしてるとかでしょ。」

「もっと身近な奴だよ。」
「へえ、その人可哀そうだね、もみじなんかに好かれて。」


「まあそうかもな。でもそいつは俺に好かれるよりももっと辛い目に遭っているからな。俺が幸せにしてやらねえと。」

「ぷっ……もみじのくせに何言ってんの。まあ、せっかくだから聞いてあげる。どんな人なの?」

「そいつは根っからのいいやつだよ。大切な奴のために自分を犠牲にして助けてやったり友達がいない子に寄り添ってあげるようなやつ。何もしなくても皆から支持されてるのに好きな奴のために何でもするんだ。」


「てか、それってわかりやすい三角関係だよね。もみじが付き合えるわけ……。」

「ああ、今のままじゃ無理だと思う。でも、そいつにも休ませてやる時間は必要だし、今すぐに付き合いたいわけじゃないんだ。」


「真面目なもみじって調子狂うんだけど。」

「こういう俺も悪くないだろ。」
「そうだね。まあ、私は興味ないけど。」