「フィオナ、少し落ち着こう」

エヴァンはそう言い、フィオナの手をサルビアから離させると、フィオナの肩に触れる。そして、「ゆっくり息を吸って、吐いて」と深呼吸をするように促した。

それを見ていたシオンに、サルビアが「あの資料を見せても構いませんか?」と訊ねる。シオンはサルビアの問いには答えず、フィオナの方を向いた。

「フィオナ、黒いバラの花びら事件のことを知りたいの?」

その問いにフィオナは頷く。シオンは難しそうな顔をして言った。

「特殊捜査チームに入れた私が言うのもアレだが、事件を追うということはとても危険な行為だ。一度足を踏み入れたら決して戻れない。命を狙われる可能性はゼロではない。その覚悟はあるか?」

フィオナの心の底には、特殊捜査チームという居場所ができてからずっと存在する思いがある。無感情ではなくなってしまった。赤い瞳の奥には、炎のように揺らめくものがある。

フィオナは胸元を強く掴み、大きく息を吐いて口を開く。頭に浮かんでいるのは、あの時目にした家族の遺体だ。