絵里加の受験が 近付いたある日 

沙織は ご近所の方から 思いがけない情報を聞く。


家の近くで 買い手を 探している家があると。
 

「智之さん達の家 中古じゃ 駄目かしら。」

沙織が 紀之に言うと 
 

「いや。場所が良ければ 中古でもいいよ。リフォームしても良いし あまり古いなら 建替えてもいいからね。」

と紀之は 言う。
 

「あのね。公園の近くで 家を売りたいっていう人が いるらしいの。」

沙織は 紀之に 話してみる。


紀之は 驚いた顔で 沙織を見る。
 

「夕方 買い物のついでに 前を通ってみたけれど いい家よ。」

沙織の言葉に 紀之は 笑顔で

「親父達に 話そう。」

と言った。
 

子供達が 眠ってから 紀之達は お父様とお母様に 伝える。
 

「公園の近くの 中谷さんっていうお宅です。仕事の関係で 海外に 移住することになったとかで。」

沙織が ご近所から 聞いた話しを伝えると
 

「沙織ちゃん よく見つけてくれたね。」

とお父様は 労う目で 沙織を見つめてくれた。
 

「そんなに 大きくないけれど 綺麗な家でした。ただ中古だから どうかなと思って。」

沙織が 控えめに言うと お父様は、
 

「この辺で 売りに出ただけで ラッキーだよ。建物は 建て替えも できるから。」

と言って お母様を見る。
 

「明日 沙織ちゃんと一緒に 良く見てくるわ。」

お母様も 笑顔で頷く。
 

「今月中は まだ 住んでいるみたいです。おうちの方と お話しできるかもしれない。」

沙織の言葉に お父様とお母様は 微笑んだ。
 

「もし良ければ 絵里加姫の入学までに 引越しさせてあげられるね。」

お父様が言い
 
「はい。そうすれば 絵里ちゃん 樹達と一緒に 通えるから。」

と沙織が頷く。
 

「まだ 合格してないだろう。」

と紀之は 笑って言う。
 
「大丈夫よ、絵里ちゃんなら。」

と答える沙織に 紀之は
 

「他人事だと思って。麻有ちゃん 去年の沙織みたいに なっているだろう。」

と言う。
 

「それが 最近は 吹っ切れたみたいで 案外 ケロッとしているわよ。」

お母様が言い 沙織が頷く。


絵里加が 年長になったばかりの頃は 麻有子も 相当焦っていた。

でも最近は ゆったりと 落ち着いている。
 

「麻有ちゃん ああ見えて 意外と 度胸がいいからな。」

と紀之が言い みんなで 声を上げて笑う。
 


こんな時間も 楽しいから。


子供達が 眠った後も 沙織達は お父様達と一緒に過ごす。


お父様達も紀之も そんな沙織を とても大切に思ってくれる。
 


『私は本当に幸せだ。眠る直前まで 家族で笑っていられる。』


沙織の心は 陽だまりのような 温かさに包まれていた。