「お昼休みはごめんね、私から質問してたのに中断しちゃって」


放課後になって、部活に行こうとしていた俺に相原が話しかけてきた。
いーよいーよ、いつものことだし、というと相原はほっとしたように笑顔を
見せた。


「秋の新人戦に向けての練習で忙しいのに、文化祭の準備もしなきゃいけ
ないなんて大変だよね」


そうなんだ、お人よしの俺はうっかり実行委員なんてものになってしまって、
今の時期は本当に体が2つあっても足りないくらいなんだ。かたや西浦は
毎年高等部で行なわれるベストカップル賞のことで頭がいっぱいらしく、
どうすれば上級生を出し抜いて自分たちが1位になれるかを考えている、
なんてことを相原は知ってるんだろうか。





1学期、やっと相原に落ち着いたと思ったのに相変わらず教室で複数の女の
子に囲まれてる西浦を見て、余計なお世話かと思いつつも相原の気持ちを
考えたら何だか腹立たしくなって、俺は相原に『あんなんで本当にいいの
か?』と問いただしたことがある。うーん、と少し考えてから相原はこう
答えた。


『でも、アレがなくなったら西浦じゃなくなっちゃうような気がするの。
だから平気』


でも度が過ぎたらグーで殴るよ、と笑った相原の表情は俺が好きになった2年
前の笑顔そのままで、それだけで西浦との間に確実な信頼関係が出来上がって
いることを感じさせるのに十分だった。





これから図書館に行くの、と相原はいった。沼くんに教えてもらったところを
今日中にやっておこうと思って、と相原はいうけれど、それが部活帰りの西浦を
待つ口実であることはいくら鈍感な俺にもわかる。テニス部には俺の他にも
数名の実行委員がいる関係で、委員会がある今日はたぶん早めに練習を切り
上げるはずだ。そう相原に伝えたら、そうなんだ、と一見そっけなく、だけど
一瞬微笑んだのを俺は見逃さなかった。


「あっねえ沼くん」


「ん?」


「西浦がね、『平沼に任せておけばだいたいのことは大丈夫だよ』といってた
よ。あれでけっこう沼くんのこと頼りにしてるんだと思う」


だから頑張ってね、といって相原は図書館へ向かった。