30分くらい経った頃に西浦は教室に戻ってきた。
この数日間私はあんなに気まずい思いをしていろいろ悩み考えていたと
いうのに、やっぱり西浦は私が知ってるいつもの西浦で、たくさんの花束や
紙袋を持って『ごめん、遅くなった』といった。


「すごいね、それ全部もらったの?」


「うん、テニス部の後輩とか、同級生とか。よってたかって渡されて、誰が
くれたのかわかんないよ」


気づいてみれば10日ぶりの会話。意外なくらい普通で拍子抜けしそうだった
けど、やっぱりそれも長くは続かなかった。
会話が続かない。今までの私たちからは想像もつかないこと。涙が止まらない
くらい笑い続けたことも、夜眠るのも忘れて電話したこともあった。恐らく
自分たちとは無縁であろうと思われた『沈黙』という時間が重くのしかかる。



「希、帰ろう」



余計なことをいわず、ただ一言そういって差し出された西浦の右手。
その手をとるには私は西浦を好きになりすぎた。きっと今以上に醜い独占欲に
支配されて、私は自分を嫌いになる。
そう思ったらどうしてもその手をとることができなかった。

先に動いたのは西浦だ。彼は立ち尽くしたままの私の側の机に腰掛けた。