空へ落ちる夢を見た。あるのはただ青い空へ落ちていく夢だ。なんともバカげた夢だと思った。空へは上るもの。それが当たり前だと昔から決まっている。誰が決めたかなんて誰も知らずに…


8月。朝から暑い日だ。汗をかいた首筋、朝から汗をかくのは少々好きではない。寝ている間に蹴り落としたのか、布団は無造作にベットの下へ落ちていた。夏の好きなところは朝起きやすいことしかない。別に眠い訳でもないが、冬よりかは断然起きやすい。
のっそりと起き上がってスマホを見る。公式LINEやサイトからのお知らせばかりで知人などからの連絡は一切ないことに軽く呆れてしまう。インスタを開けば既に外へ出て遊び回る人ばかり。夏休みの中盤前だが遊ぶ予定はひとつも入っていない。
朝から憂鬱になりつつも夏休みだから気持ちは楽だ。親は仕事に出かけ家にはいない。なんとも無防備なことか窓は全て網戸だ。
冷蔵庫からアイスを取り出してテレビをつける。最近いつもこんな感じだ。少し痩せた気もする。さて、今日は何をしようか。政治家のニュースを見ているが、正直何も頭には入っていない。眺めているだけ。
ソファの背に持たれアイスをくわえながら上を向いた。揺れるカーテンと青い空。あぁ、さっきのことをもう忘れていた。空に落ちたんだな。夢だけど。
こんな繊細に夢を覚えているのは久しぶりだ。でも所詮夢だ。優先すべきは今日何をするか考えること。
課題をしないといけない、絵も描きたい、図書館にも行きたい、コンビニの新作アイスも食べたい。けれど全てめんどくさい。
一向に決まらない脳内会議。とりあえず着替えようと決めてアイスの空を流しに置き、あくびをかましながらリビングを後にした。
さて、どれを着ようか。このTシャツは記事が暑すぎる。かといって、こっちは生地は最適だが合わせるのが難しい。
また決まらずいつも来ているコーデになった。代わり映えのない日々はもしかしたら自分のせいだったりするな…
スマホとイヤホンと財布…あとは…モバイルバッテリーを忘れるところだった。
四つを無造作にばっくに詰め込んだ。
この時点で図書館での勉強という選択肢は既にない。やはり、課題は家で夜にやる方がやる気が出るから。
今日はアイスを買いに行こう。
ついでに、しばらくのお菓子も。これはまさにニートだな。いっその事、YouTube初めてしまうか、働きたくないし。と、馬鹿なことを考え始める。そうしてる間にコンビニについた。ドアが開いた瞬間冷たい空気が私を迎え入れた。寒暖差で逆に体を壊しそうだ。こここは寒すぎるし、外は暑すぎる。露出した腕を擦りながらアイスコーナーへ直行する。
あった。空のアイス。最近話題のアイス。見た感じ普通のアイスだか、話題になった理由はアレンジ方法だ。このアイスを溶かして液状にした後、綿菓子を載せることで本物の空のように見えるらしい。それがインスタ映えしたらしいのだ。ちゃっかり綿菓子も買って他のお菓子やジュースも買ってしまった。合計は千円を超した。まぁ、たまには自分へのご褒美だ。寒暖差地獄のドアを抜けるとそこにあるのは真夏地獄。直射日光がきつい。これだとアイスは帰るまでに持ちそうにない。
どうせ溶かすから問題は無いが…たまには違うところで食べよう。どこかと知らない坂を上り、小さな商店でプラスチックの容器とスプーンを買った。小さなおばあちゃんがやっていた店だ。あんな雰囲気のお店は好きだ。行きやすい。また坂を上っていく。少しずつそれへ近づいている気がした。息を切らせながらたどり着いた場所はベンチしかない名ばかりの公園だった。街を見渡せる程の高さ。風通りが良くて気持ちが良い。あれだけ街は暑かったのにここは嘘のように涼しい。ベンチに腰かけてアイスを広げた。案の定溶けていた。アイスを容器に移して入道雲のように綿菓子を飾った。そこには、小さな空ができた。なんて綺麗なんだろう。アイスの空気の泡が、少しづつ溶けている綿菓子が、全てが綺麗だった。見とれてしまっていて。たかがアイスごときに。それほど綺麗で繊細だった。写真も忘れ、食べることも忘れ、綿菓子が空に溶けるまでただじっと眺めていた。溶けきった後にふっと我に返りアイスを食べた。もうぬるい。だけれども甘いし、美味しい。綿菓子が甘さを調整しているようだ。ちょうどいい甘さに口の中は満ち足りていた。
ほぼ空になってあとは3分の1しか残っていない時、それは起きた。強い風が吹いて容器は空に飛んだ。中身は全て私に降り掛かってきた。一瞬の景色を見逃さなかった。アイスの…空の青色に視界を包まれた世界を。あの夢を再現した。そして、アイスは私に落ちた。今度は私ではなく、空が私に落ちてきたように思えた。しかし、所詮はアイス。ベタベタして気持ちが悪い。服も汚れてしまった。最悪だと口にするも、さほど思ってはいなかった。あの景色が頭から離れてくれなかった。