もう一人が凄んでくるけど……全然怖くないし。



あたしは白けた目で二人組を見やる。


顔を近づけてくるな、長髪。



お前もどっちかにしろっ!!



長髪を切って学生になるか。


制服を脱いで3年○組金八先生になるか。


しっかし似合ってないな、長髪。


長髪にしたいなら竜希さんぐらいカッコ良くなってからにしろ。




「席にご案内しましょうか?それともお帰りですか?」



笑顔を張り付けたまま聞く。


アイツらの問いには答えない。



"黒豹"の溜まり場。

は、ここではない。



溜まり場ではないけれど、常連さんではある。


ここは寛いでいたお客様のことを考えて「違います」と言うべきなのはわかってる。


でもあたしの口からその言葉が出ることはない。


絶対に。


あの人達が笑顔で通ってくれる場所を、嘘でも否定したくない。




「あ"?テメェ」


「おいっ、ちょっと待て」


「あ"あ"?」




あっ、ダメ!!


長髪があたしの首辺りを見た。


そこにあるのは……!!




「……ぐっっ」


「きゃあっ!?」




遅かった!!


長髪の目に入ったホイッスルを隠そうとした。


けれど、ホイッスルを包もうとした手は叩き落とされ掴まれる。


そしてそのまま男達の目に入る位置まで持ち上げられる。



突然の凶行に女の人が悲鳴を上げ……


情け容赦ない力に、ホイッスルに通したチェーンが首に食い込む。



痛いっつの、ボケッ!!


と文句を言ってやりたいけど、その前に。


ギリギリと首が擦れるのも構わず、あたしは怯えてる女の人達に顔を向け笑ってみせる。



"大丈夫だから、怯えないで"



そんな気持ちを込めて。